枕なしで寝てみようとした(失敗した)
枕って不自然だとふと思った。
敷き布団はわかる。柔らかいところで寝たいし、野生生物の中には落ち葉で寝床を作る生物もいる。落ち葉ベッドの進化形だと考えると私たちの先祖も納得してくれるだろう。
掛け布団もわかる。毛皮や草の茎を編んだものが進化したものだと考えられる。ヒトは体毛を失った代わりに服を得たので、寝るときに何かをかぶるのも自然だと言える。
だが枕ってなんだ?なんで寝るときに頭を上げる必要があるんだ?自然界で枕を使って寝る生き物が一匹でもいるか?枕っていらなくね?
睡眠はあらゆる生物に必要である。それならば、正しい「寝る体勢」というものが私たちのDNAに刻まれているはずだ。そして、その「寝る体勢」に枕は必要ないはずだ。なぜなら、自然界において枕は常に用意できるとは限らないからだ。野生生物において、枕を使って寝る生き物は存在しない。それならば、私たちヒトも本来は枕なしで寝るのが自然なはずだ。
そう考え、一晩枕なしで寝ようとしてみた。
まず、枕をベッドから床に投げ捨てる。ついでに掛け布団も投げ捨ててやった。
これで、これまでベッドだと思っていたものは、ただのフカフカなマットになった。
まず、仰向けに寝転がってみる。背中一面がマットについている体勢で、腕は体と平行に。本当は横に伸ばして大の字になりたかったが、シングルベッドなのでそんな余裕はない(床で寝る勇気はなかった)。そして深呼吸。まるで大地と一体化しているような感覚を得ることができる体勢である。
だがどうにも寝ることができない。私は枕が変わると寝られないという性質ではないが、そもそも枕がないのだ。だから、寝られないのもしようがない。
なぜ寝ることができないかというと、頭が上を向きすぎているのである。頭が上を向きすぎて息がしづらい。
そもそもヒトの首の骨は前弯しているため、上を向くことが苦手なのだ。上を向いて歩こうと巷では言われているが、上を向いていたら足元が見えないではないか。私たち人間は下を向いて歩くのがむしろ自然なのである。よって、仰向けは自然な体勢ではないと判断した。
次に、横向きになってみる。腕は腹側にほっぽり出し、足も同様にした。つまり、猫が寝ている時の体勢である。猫がこの体勢で寝るのだから、ヒトもこれが自然であろうと考えていた。
しかし、どうも寝づらい。首が地面側に寄りすぎて、まるで首を傾げているような姿勢になってしまうのだ。
ヒトは猫よりも肩幅が頭部に対して広い。そのため同じ体勢をとっても首の曲がり具合がだいぶ異なるのである。
そこで、前腕を枕にしてみた。枕なしで寝るというコンセプトに反しているではないかと思うかもしれないが、野生環境でも腕枕は用意できるのでOKなのである。
だが、これもどうにも寝づらい。腕を枕にしているので当然だが、腕が圧迫されるのである。でも後から思い返してみれば、この体勢が一番寝やすかったように思う。
さて、残っている体勢はうつ伏せである。うつ伏せは腹を守る姿勢であるとも言える。野生環境ではいつどんな敵が襲ってくるかわからない。そのため、腹を守ることができるうつ伏せは野生の理にかなっているはずだ。
ふむ、寝づらい。頭の位置が定まらない。めっちゃ寝違えそう。朝起きたら首が痛くなってそう。うつ伏せ寝派の人はその辺大丈夫なんですかね。大丈夫なんだろうな。僕には無理でした。
全ての体勢を試し終えた私に、最後に残された道は床に投げ捨てた枕を拾うことだけだった(あと掛け布団も)。やはり枕があると快適だ。頭部の安定感が違う。なぜ多くの人々が枕を使うのか理解できた。もはやヒトは枕に飼い慣らされてしまっているのだ。
いや、きっと人類は初めて仰向けで寝たその時から枕を使っていたのだろう。だから私たちが枕を使うのは、不自然ではなくむしろ自然なのだ。よって私は、これからも枕を使い続ける。正しい姿勢など知るものか。私が正しいと思った姿勢が正しい姿勢だ。